2009年9月25日

日本の国産食材

私は本来、広告や販促、広報を中心としたコミュニケーション活動をお手伝いするのが主な仕事だが、昨年以来、多少出版物の企画や編集をお手伝いさせていただく機会に恵まれ、春から手がけていた書籍、「日本の食材帖」(主婦と生活社)が、このたび発行になった。まもなく書店店頭に並ぶだろう(Web上の書店では既に発売開始)。
それに合わせ、右の「最近の仕事2」欄でも紹介させていただいた。

私自身は、学生時代に栄養学を学んだことから料理番組の企画制作に加わったのが、広告業界への入口だった。その後、農林水産系の食材の普及啓蒙活動、日本型食生活の普及活動や地域活性化策にも関わるようになった。その経験が、今回多少役立ったとは思うが、何よりもこの種の分野で素晴らしい実績を上げている編集スタッフの方々とのご縁に恵まれ、ご指導いただいたことに心より感謝している。
出版業界は広告業界とは近い業界でありながら、伝えたいことの見せ方、訴え方が違う。できるだけ情報を絞って印象深く訴求する広告に対して、出版物は豊富な情報をしっかりと、しかもわかりやすく見せることが重要になる。世の中には教科書的な解説書は多々あるが、そういうものには普通の人が知りたい情報は意外に載っていない。本書では、理解を深める本でありながら教科書にはしない方向でスタートし、普通の人が知りたい情報を満遍なく掲載するよう配慮した。知識のつまみ食いをしながら全体像が把握できるお手軽本なので、どんな方にも喜んでいただける本としてできあがったと思う。
自分の仕事の成果として、最終的にできあがる「本」は、まるで自分の子どものようだ。その本が書店店頭に並び、多くの人の目に触れ、さらに購入してくださる読者がいるということは、本当に嬉しく、ありがたいことだ。これは、仕事をした者にとっては、広告と全く違う、出版の仕事の仕事の価値だと思う。
私は、かつて全国の過疎地域の活性化策をお手伝いしていたせいか、その根幹産業である農林水産業には、たぶん人並み以上の愛着がある。数多くの生産者の方々との接点もあったので、厳しい環境ではあるが、がんばってもらいたいと思ってきた。、国産食材を紹介する本書の編集・執筆作業は、当時お世話になった生産者や地方自治体の方々のお顔、そしてご苦労を思い出しながら進めることになった。本書の発行が、そういう方々のお役に立つようになれば、と願うばかりだ。

2009年9月18日

イメージづくりと演出

民主党政権がスタートした。
官僚のメモなしに夜中まで及ぶ就任会見や、新大臣が翌日から次々と各省庁に方針変更決定を伝えたり、指示・命令を出したりしているのが、トップニュースで報じられている。自民党政権時代の新閣僚がどんな動きをしていたかなど覚えていない国民にとっても、テレビでは今の映像とともに以前とどう違うかを克明に説明するので、是非はともかく「変わったんだな」と誰もが思うような展開が、今のところ進んでいる。
一方で、覚醒剤で逮捕された酒井法子が保釈されたのが、もうひとつのトップニュースだ。警察署を出てくるところからの映像が流れる。微笑む酒井法子の表情に、私はやや違和感を覚えたが、その後、深々と頭を下げるつむじのまわりが、生え際の黒い髪がしっかり伸びて、茶色く染めた髪との境い目がはっきりするのを見て、逃亡から拘留までが確かなことをまざまざと見せつけられた気がした。けれどもどんなにかボロボロになっているだろうと同情していた気持ちは、酒井法子がきれいにメイクし、黒の上下スーツの清楚な雰囲気を醸し出していることで、再び違和感になってしまうのだ。今日になって、記者会見で涙を流しても化粧が崩れないことや、保釈直前にヘアメイク担当者が警察署に入って行ったことなどが報じられた。保釈直後の微笑みもあって、意地悪な私は、「やっぱり女優は違う。本当に反省しているのかな。」と感じてしまったし、テレビでもそういう論調だった。
最初のイメージ作りは重要だ。
民主党は新体制発足直後から、次々と「変わった」感を見せている。新たな出発を見事に演出していると思う。多少稚拙であったとしても、「変えようと頑張っている」様子は好意的に受け取られやすい。共感も得やすいだろう。
一方で、酒井法子は生まれ変わった再出発を見せるべきこの段階で、事件発覚前の清楚な酒井法子が謝罪したように見えた。これは「変わっていない」ことを見せたことに他ならない。だから反省しているように見えにくく、酒井法子に対して同情していた人までもが裏切られた感=否定的なイメージを抱いてしまうのだ。もしここでノーメイクで出てきて、声も出せないほどに傷つき反省している(ように見える)映像が流れれば、「もう許してあげよう」という空気が出てきたかもしれないのだ。SMAPの草彅クンはこの形だったと思う。
すべてが演出、と考えるのは心地よいものではないが、最初のイメージ造成で、民主党は成功し、酒井法子は失敗したと、私は思う。
企業も商品も同じで、最初にどのようなイメージを作っていくか、どのように共感を得て行くかというのは重要だし、ここを間違えたりおろそかにしたりすると、次の1歩が難しくなっていくのだ。
とは言うものの、“イメージ作り”という視点からはこのように見てしまうけれど、それでもやはりイメージというものは、その心の中や本心というのが垣間見えて造成されるものであってほしい、と私は思う。

2009年9月15日

値上げ交渉から値下げ交渉

現在、ファッション関係クライアントに対して、冬のボーナス商戦に向けてのテレビスポット投下キャンペーンの提案準備を進行中だ。

テレビの広告効果が年々落ちていることは、このブログでもたびたび書いてきたが、それでもプロモーション手法の一つとして、そのクライアントがテレビを一切使用しないことは非現実的だ。たとえ効果が薄れているとはいえ、それでも確実にテレビ効果はあるので、無視はできない。どこのクライアントにとっても費用対効果が重要なわけで、広告予算としてテレビが高額だから問題になるのだ。たとえ高額でもそれに見合った効果があればいいわけだが、この効果に対しては高額すぎる、となるからテレビの広告効果が落ちてきていると言われるのだ。

昨年のリーマンショック以来、どこの会社でもコスト削減を行う中で、高額なテレビ広告はその削減対象になってきた。車業界、家電業界が大幅にテレビ広告を減らしたのは、日々テレビを見ていれば誰の目にも明らかだ。

民放テレビ局は、広告費を収入の柱とした事業スキームであるだけに、広告主のテレビ広告予算削減は死活問題だ。つい数年前には、テレビ広告を実施したくても枠がなく実施できなかった時期があったことなど、今や信じられないくらいだ。当時はCMを打つための枠取り合戦だったのが、今や需要供給バランスに各局の獲得戦争が加わり、どんどん値崩れを起こしているのだ。

クライアント側は費用対効果から、当然のことながら少しでも安く抑えたいというニーズがあるわけで、料金交渉は熾烈なものになってきた。2009年になって以降、テレビスポット投下コストの交渉は、毎回値下げ交渉。かつてテレビスポットのコストは実績重視で、毎年テレビ局から値上げ要請が出てきた。こちら側としてもクライアントにその値上げ経緯や理由を説明し、クライアントに納得してもらうための交渉をしなくてはならなかった。そのことを思うと、時代の移り変わりを痛感する。需要供給バランスと競争原理の中で、クライアントの要求が厳しいのは当然だし、クライアントに提案するこちら側としては、値下げ交渉のみならず、サービス付加まで交渉(要求)することになる。こちら側にとっては、クライアントのために動いているわけだから喜ばしいことであるのは間違いない。しかし毎回毎回このような交渉をしながら、テレビ業界のことを思うと、今後どこまで値下げ交渉が可能になっていくんだろう、と空恐ろしくもなる。

今後、景気が上向き、テレビ広告の需要供給バランスがまた変わったときには、テレビ局から値上げ要請される日が来るかもしれない。しかし、クライアント側の考える費用対効果のバランスに見合うだろうか? かつてのようなレベルの値上げは、もはや承服できなくなるだろう。この1年でそれを十分に検証してきたわけだから。その時、テレビ業界の事業スキームはどのように変わっているのだろうか。