2012年4月14日

言葉を知らなければ意思疎通は図れない

私が関わる小さな会社でのことだ。
外回りをする営業マン、24歳。東京の有名私大を卒業し、新卒で入社した2年め男子で、素直で前向き、スポーツマンでもある。
その彼が、一人で大事な取引先のトップとの商談に臨むところまでにこぎつけた。
今までなかなか営業がうまくいかなかった彼にとってはそれだけでも快挙だが、せっかくのチャンスなので、価値ある商談にするための念入りな準備を進めた。
私も、彼の相談に乗ったり、商談リハーサルとも言えるロープレにつきあうなど協力し、当日を迎えたのである。
商談に臨んだのは彼一人なので、その場がどんな雰囲気で、どんな風に話が展開されたのかは彼にしかわからない。
後日聞いた彼の話によれば、商談後に取引銀行の話題が出たようで、商談相手はその銀行の頭取と所縁があることからそれに関連した話題になったという。
その話を聞いていたところ、彼は「頭取」の意味をわかっていなかったことに気づいた。彼は、「トウドリさん」という名前の人の話をしているものだと思い込んで会話が進んだのである。特につっこんだ話でもなかったようなので、会話に不自然なところはなかったはずだという話ではあったが、「頭取」を知らなかったことに、私は驚愕してしまった。今はこれは普通のことなのか。彼は特別な稀有な例にすぎないのだろうか。
その後、気になって周囲に聞いてみたところ、若者で「頭取」を知っていたのは、半分強にとどまった。私たちの世代にとって、おそらく「頭取」を知らない人はいないだろう。「社長」と同類の一般名詞のようなものだ。けれども若者にとって「頭取」は、誰もが知っている言葉ではないようだ。
伝わると思っていると伝わらない言葉がある。言葉の意味や解釈は、時代や世代で異なる場合がある。
難しい言葉は使わずに易しい言葉で---そんなことは当たり前だが、易しい言葉であっても知らなかったり、意味を勘違いされたりすることがある。今回の営業先での話は仕方がないにしても、コミュニケーションをとっているつもりが、実は全くとれていないということが十分にあり得るのだ。
少人数だったり、face to faceであれば、表情でコミュニケーションがとれているかどうか気づく可能性もあるが、人数が多かったり、直接会っていない場合は、気づかないまま通り過ぎてしまう。組織が大きくなるほど、トップの言葉も届きにくくなることだろう。
確実な意思疎通と情報共有がしやすい少人数組織は、企業理念やビジョンが重視され、スピードが求められる今の時代だからこそ大企業や大きな組織よりも強くなるチャンスなのかもしれない。社員一人一人の顔が見え、一人一人の個性までが把握できる小さな組織だからこそ伝わること、感じることが、たくさんあるに違いないと思う。