2014年11月19日

高倉健さん訃報に寄せて


大物俳優、高倉健さんが亡くなった。
出先で知らない人が話しているのを聞き、私は思わずその人に「本当ですか?」と声をかけてしまったくらい驚いた。

半信半疑ですぐにテレビをつけたら、健さんの遺作になった映画「あなたへ」で初めて共演した長塚京三さんが、健さんについて語っていた。
「そういう人がいる・・・そう思うだけでホッとしたり、背筋が伸びたりする人っているでしょう? 誰にもそんな人がいるのではないかと思いますが、高倉健さんは、私にとってはそういう人でした。」
長塚京三さんは、この映画で共演するまで、健さんに会ったことはなかったと言う。

「幸せの黄色いハンカチ」で共演した武田鉄也さんは、健さんはコツコツ努力している人が好きだったから、今、自分が60歳を過ぎても、バッタリ会ったときに恥ずかしくないようにという思いがあり、地道に努力できたのだと語る。

このように思う方がきっとたくさんおられるのだろう。
長塚京三さんも、武田鉄也さんも、きっと健さんの姿勢のようなものに魅せられていたのではないかと思う。

姿勢とは、生きざまとも言えるかもしれない。
生きてきた軌跡。
どこを見て、何を見て生きてきたか。
何を大事にしてきたのか。


Yahoo!ニュースに、所属事務所が発表したコメントが掲載されている。


生ききった安らかな笑顔でございました。

病名 悪性リンパ腫
「往く道は精進にして、忍びて終わり悔いなし」
83歳の命を全う致しました。

治療に携わって下さいました病院スタッフの皆様から温かい涙とともにお見送りを戴き、故人の遺志に従い、すでに近親者にて密葬を執り行いました。


健さんは、自分というものをもちながらも、一方でいつも迷いながら生きていく人だったという。

器用になんでもこなし、コミュニケーション力に優れている人こそが今の時代によいとされるが、健さんは正反対(に見える)。
役柄からは不器用そのものに見える。
お話がうまいわけでもない。けれど、心の通った気遣いをされる方だったという。
素(す)の健さんは饒舌だったそうだが・・・。

回りを見まわしても、似ている人がいない。
こういう人はもう出てこないんじゃないか、と残念がる声も聞かれた。

今の時代、よしとされるタイプと正反対のように見える健さんみたいな人は、たしかにもうなかなか出てこないかもしれない。
この訃報に接し、今の時代によしとされないタイプの健さんが、ますますあこがれの対象になっている。
でもこれを、古き良き昭和な感じ、とまとめたくはない。

時代が求める形は、必ずしも求める形ではないのだ。
みんなが同じ方向を求める必要はない。そんなのは気持ちが悪い。
ここのところ、誰もが一斉に同じ方向に向くような気持ち悪さを感じることがある。
でも人はみんな違う方がいい。
自分自身も、周りの人たちの違いを受け入れられる大きさを持ちたい。
その時代、その時代ごとに、「○○な人がいい。」とされる人間像が言われるけれど、自分もそうならねばなどと、そんなものに振り回されてはもったいない。

自分の足で立つ。
そして、自分の姿勢とはどういうものか、どこに向かって、何を見ていくのか。
そういうことを大事にしたい。
どんなに迷いながらであったとしても。

そんなことを健さんの訃報で感じさせてもらった。

それにしても、83歳でカッコよすぎ。
ご冥福をお祈りします。